全社員がClaude Codeで顧客業務(給与計算・助成金申請の作成など)を進めるようになりました。便利になった一方で、その作業データを「どこに置き、どう守り、どう管理するか」のルールが、まだ会社として定まっていません。PCが1台壊れれば顧客作業が止まりかねず、顧客の個人情報を含むデータが各自のPCに散らばっている状態は、社会保険労務士法人として見過ごせません。
この資料は、前半=「どの方向で行くか」の提案(管理職の意思決定用)、後半=「決めた後どう運用するか」の実装・運用設計(議論のたたき台)の二部構成です。結論として運営側は「各社員の個人OneDrive方式」を推奨します。
前半 ── 提案(意思決定用)
いま起きている課題
- バックアップが不明 ── 作業ファイルは基本的に各自のローカルPCに保存されている。PC故障時に作業が失われる恐れがあり、これが社員の人数分ある。
- 巻き戻しの手段がない ── Claude Codeが誤ってファイルを上書き・削除した際、前の状態に戻す仕組みが各自に用意されていない。
- 管理者が把握できない ── 誰が・どの顧客のデータを・どこに持っているかを会社として一覧できない。機微データ(顧客の個人情報・財務情報)が絡むため、所在不明は安全管理上のリスクになる。
まず押さえたい前提
- 機微データはそもそもClaudeに読ませない方針が既にある(社内ガイド「Claude Codeを安全に使うために」)。マイナンバー・健診結果・病歴などは✕。作業フォルダに入るのは給与計算の集計表や助成金の書式など「読ませてよい範囲」が中心。本提案はこの方針を変えない。
- SSDの容量に限りがある ── 256GBなど容量の小さいPCもある。全社共有のSharePointライブラリを丸ごとローカル同期すると足りない。
- 社員はスマホ・Web版のClaude Codeを使わない ── 外出先からの編集需要はない。
選択肢は2つ
案A:git / GitHub 方式
作業の節目で「コミット(セーブ)」して退避
- 巻き戻し・差分確認に最も強い(プログラム的な作業向き)
- 「コミット」操作を全員が習慣づける必要がある
- 機微データはGitHubに上げられず、結局守れないデータが残る
案B:個人OneDrive活用 (推奨)
各社員の個人OneDrive(会社テナント)に作業フォルダを置く
- 保存のたび自動でクラウドへ退避=バックアップが勝手に貯まる
- 「バージョン履歴」から前の版に戻せる=特別な操作なしで巻き戻せる
- 一人しか触らないため同期が安定(共有ライブラリは競合・保留が出やすい)
- 顧客データが社員間で混ざらない(担当ごとに分離・守秘に適う)
- 持ち主は会社。管理者が必要時にアクセス・復元でき統治は保たれる
- 作業中の分だけ手元に置けば、容量の小さいPCでも収まる
2案の比較
| 観点 | 案A:git / GitHub | 案B:個人OneDrive |
| バックアップ | コミット&退避した分だけ | 保存のたび自動 |
| 巻き戻し(1ファイル) | コミットが必要 | 自動の版履歴から復元 |
| 巻き戻し(丸ごと) | 得意 | 苦手(ファイル単位) |
| 管理者の見える化 | 退避先を共有すれば可 | 管理者権限で必要時アクセス・復元可 |
| 同期の安定性 | ― | 個人OneDriveは安定(共有は競合が出やすい) |
| 社員の学習コスト | 高い(コミット習慣が必要) | 低い(普段の保存のみ) |
| SSD容量 | 全データを手元に抱える | 作業中の分だけ手元に置ける |
| 顧客データの分離(守秘) | ― | 担当ごとに分離 |
| 機微データの適性 | 上げられない | 会社テナント内で統制可 |
なぜGoogleドライブを採らないか
「同期先ならGoogleドライブでもよいのでは」という声に答えます。結論は、プラットフォームの好き嫌いではなく、CLIツール(Claude Code)をローカルのファイル上で動かすという用途で見ると、OneDriveが明確に優れているからです。
Googleドライブが不利な理由(技術的)
- CLIとの相性(最重要):Googleドライブ・デスクトップの既定は「ストリーミング」=ファイルは仮想ドライブ
G: 上にあり、開くとき取りに行く。大量のファイルを読み書きするClaude Codeは、この仮想ドライブ層の上だと遅延・つっかえが出やすい。 OneDriveの「ファイルオンデマンド」はC:ドライブ(NTFS)に溶け込んだ実体で、ツールから“普通のフォルダ”に近く扱える。
- SSDのジレンマ:Googleで確実にローカル実体を持たせる「ミラーリング」にすると全部ダウンロード=SSDがきつい。ストリーミングにすると上記の不安定が出る。OneDriveは「オンデマンド+作業中だけ常に保持」で両立できる。
- 過去の実害:当社では以前、Googleドライブの一時ファイル(
.tmp.driveupload 等)がSSDを圧迫した事故があった。小容量PC・非技術者運用では十分な減点材料。
- 仮想ドライブ起因の手間:ドライブ文字
G: ・仮想ファイルシステム上では、後からの細かな運用(リンク・一部ツール)で挙動が読みにくい。素のフォルダであるOneDriveのほうが予測しやすい。
なお「会社の基盤がMicrosoft 365だから」という理由は、基盤ごと見直す前提なら決め手にはしません。仮に乗り換え自由でも、上記の“CLIツールとの相性”という一点でOneDriveを選ぶ、という整理です。Googleドライブは「共有・閲覧・納品の受け渡し」には引き続き使えますが、Claude Codeの標準の作業フォルダ同期先には向きません。
運営側の推奨
推奨するかたち
- 一般社員 → 案B(個人OneDrive活用)。 普段どおり保存するだけでバックアップと巻き戻しが効き、同期も安定し、顧客データは担当ごとに分離される。gitの習得は不要。
- コードや自動化スクリプトを書く一部のメンバー → 案A(git)を併用。 複数ファイルをまとめて巻き戻す・差分を見るなど、gitでなければ難しい作業がある場合のみ。
- あわせて「機微データの取扱いルール」を1枚にまとめ、全社共有する。
「巻き戻し」はgitだけの機能ではなく、OneDriveの版履歴でも日常用途は十分。一方gitは社員にコミットの習慣を強いるため、いざという時に「セーブが一度もない=戻せない」状態に陥りやすい。自動で貯まるOneDriveのほうが、書類仕事の現場には合うと考えます。
後半 ── 運用設計(実装の詰め・たたき台)
守るべきは3つの層
OneDriveは「バックアップ」ではなく「同期」です。だからこそ「同期失敗・誤削除・生成物の爆増・Claude設定の取りこぼし」を別建てで設計する必要があります。守る対象は3つの層に分かれ、とくに第2層は作業フォルダを同期するだけでは守られません。
第1層:業務データ(顧客の作業ファイル)
- 各社員の個人OneDriveに固定の作業フォルダ:
OneDrive\Claude作業\顧客名\案件名
- フォルダ階層は浅く。 OneDriveはパス全体400字・各名前255字の制限があり、当社のテナント名が長いため、深く掘ると上限に当たる。
- 日常の巻き戻しはOneDriveのバージョン履歴で足りる。ただしファイル単位同期のため、「給与一式(Excel+CSV+添付)」は塊で揃って戻らない。月次確定など重要な区切りだけフォルダごとzipで固める(日常作業まで毎回zipは求めない)。
- PC故障時の復旧手順を用意(新PCでOneDriveにサインイン→作業フォルダを「常に保持」でpin、の2手)。
第2層:Claude Codeの設定(~/.claude)── 当初の盲点
作業フォルダの外、C:\Users\(ユーザー)\.claude に skills・memory・設定があります。作業フォルダを同期しても、ここは守られません。
- skills(スキル=スラッシュコマンド):全社で統一したい“1つの正”を配る問題。コピー配布を推奨(共有フォルダ直読み・リンク接続は壊れた時に直せず非推奨)。当面は配布スクリプト、将来はBusiness PremiumのIntune(端末管理)で自動配布へ。
- memory(各社員の記憶):社員ごとの蓄積なので共有しない。定期スクリプトでmemoryだけを個人OneDriveへコピー退避(リンク接続より復旧しやすい)。
~/.claude 全体のOneDrive化は禁止(認証セッション等が含まれるため)。
- settings / MCP:標準設定は会社が強制するmanaged設定で配る。MCP連携が最大の危険ポイント。
重要:MCPの許可制
MCP(Gmail・Drive・M365・ファイルシステム等の連携)を無制限に繋ぐと、Claudeが読める範囲が一気に広がり、
人が貼らなくても機微データを自分で取りに行けてしまう。「マイナンバー等を読ませない」方針は、
MCPを許可制(必要なものだけ許可)にして初めて守られる。APIキー・認証情報は共有設定に直書きしない。
第3層:技術リスク(OneDrive同期のチェックリスト)
- 雲のまま作業しない。 作業中フォルダは「常にこのデバイスに保持」でpin(雲アイコンだとClaudeが読めず詰まる。Storage Senseが勝手に雲化する点も注意)。
- 削除もクラウドへ同期される(全端末に伝播。復元は可能だが教育が要る)。
- 禁止文字・予約名(
" * : < > ? / \ |、末尾スペース、CON等)を避ける。
- 生成物フォルダを置かない(
node_modules/.venv/__pycache__ 等は大量小ファイルで同期を圧迫。目安30万アイテム)。コードを書く人は作業リポジトリをOneDrive外に、成果物だけOneDriveへ。
.git はライブ同期しない(壊れる)。
- 同時に開くと競合コピーが出る。Excel等のロック・一時ファイルに注意。
- 個人Microsoftアカウントの混入を禁止(会社テナントのみ)。
- 作業終了時は同期アイコンが緑チェックになってから閉じる。
横断ルール(層をまたぐ統治)
- 本人確認・MFA/端末管理(Intune)
- 退職時のデータ回収(個人OneDriveは会社所有。アカウント停止前に回収する手順)
- 保持期間(いつまで残す・いつ消す)
- 復旧テスト(“本当に戻せるか”を定期的に試す。やっていないバックアップは無いのと同じ)
- Claudeに読ませてはいけないデータ(マイナンバー・健診・病歴等。既存ガイドを継続)
非技術者の社員に配るときは、この4点だけ
- 作業は必ず
OneDrive\Claude作業\顧客名\案件名 の中で行う
- 雲アイコンのまま触らない/終わったら緑チェックを確認して閉じる
node_modules のような生成物フォルダは置かない
- マイナンバー等の機微データはClaudeに読ませない
決めていただきたいこと・未決論点
- この方向(一般社員は個人OneDrive、書き手のみgit併用)で進めてよいか。 懸念があれば。
- MCPをどこまで許すか。 全面禁止から始めるか、freee等の業務必須だけ許可制で開けるか。
- 退職時のデータ回収の具体手順。 誰が・いつ・どうやって個人OneDriveを回収・保全するか。
- skills配布の手段とタイミング。 当面は手動の配布スクリプト→Intune整備後に自動化へ移すか。
- memoryに顧客情報の断片が入る件の扱い。 何を書かない・どこまで残すか。
- 試行メンバー。 誰から小さく始めて検証するか。